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夢街道
走水村
元町、という地名が登場するのは明治七年の五月である。以来、町名の根拠は、はじめにできたまち、もとのまちということになっている。
走水村
2000/09/01
夢街道
さびしい街道を、松の樹にそってさらに東へむかう。 牛のなきごえや井戸をつかう音、話し声・・・。 宇治川にかかる土橋をわたると走人村である。
兵庫にあたらしい奉行をむかえるとき、役人は土橋で出迎えた。 走水村から西は兵庫の管轄になっている。 役所への途中、楠公の墓石に案内することが、土橋まで迎えにでることを習わしにしたのかもしれない。
両端に、側溝としてわずかなくぼみをつけた細い街道をはさんで、南北に140戸の家がひろがる。 浜手には酒造りの家の庫がみえる。 山手には、川にそった斜面に、粉引きのための水車を業とする建物もある。
村人の多くは、牛といっしょに田畑に親しむ。 廻船問屋が差配する船や漁船に乗りこむ人もあり、酒造りにはげむ人、水車小屋ではたらく人もある。 賃収入でくらす人がかなりの数にのぼる村である。
村の鎮守は街道をはさんで建つ八幡社と天神社である。 神社のちかくには、沖にとどまる船に妖婦を送り込むのをなりわいとする店もある。 周辺には、めしとともに酒をだす店もある。 船乗りを中心に、賃収入でくらす人の住む村として、不便のないたたずまいをそなえる村だった。
気になるのは村の名前である。水に走られては人が住めものではない。
由来にはふたつの説がある。
天皇に仕えていた氏族である間人が住みつき、その地域を"はしひと"とよんだ。 のち"はしひと"がなまって"はしうど"となり、走水の字があてられた、という。 "ひと"を"うど"とよびかえるには、かなり地方なまりの強いひとによるものと思われる。
水にまつわる由来もある。
近くに清水のわきでるところがあり、雨になるとあたり一帯うずまいて川になった。 走る渦が"はしうど"とよびかえられたという。 "うず"から"うど"への変化は、あったかもしれない。 山と海にはさまれた狭い土地柄のこと、水に悩まされた話はそのあとも神戸のあちこちで聞かれる。 特にこのあたりは、水害に悩まされることがほかにくらべて多かったのではないか。 四国や九州のあたりでは雨水に流されて深くくぼんだ土地を"うど"という。 水が走ってできたくぼ地の表現にぴったりである。 "水"の字を"うど"と読みかえることで"うど"の土地柄を表そうとしたのかもしれない。
明治8年、八幡社と天神社を合祀したとき、すでに消滅した村名を神社の名前にしている。 古来、雨乞いの行事はあっても、日照乞いの行事はない。 水浸しになった家の後始末に苦労した日もあったにちがいないが、豊かで清涼な水に恵まれた土地柄と、海からもたらされた村のなりわい、水に感謝するこころを、神社の名前に伝えようとしたのだろう。
岩田照彦
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