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元町6丁目露地の詩(うた)
最終回・家を建てる
元町商店街で一生を暮らすおばあさんの昔ばなしです。60年くらい昔の戦前戦後の子供達の様子を書いてみました。
最終回・家を建てる
2006/11/01
元町6丁目露地の詩(うた)
文 画 猪師寛子
せっかく戦災で焼け残ったのに
強制疎開とかいうことで
私の家の一角は取り壊されてしまいました
私たちは
高橋カバン店さんの二階借りをしました
終戦になって大急ぎで家を建てなければなりません
銀行預金は封鎖されています
父は大変苦労をして
現在地に土地を確保しました
電気冷蔵庫、うどん鉢など
売れるものは何でも売りました
豊岡から材木を買い
一人前の大工さんは
まだ復員していませんから
半人前の大工さん二人と
田舎の親戚の男性たちが
食料持参できてくれました
壁の下地に張る竹は
田舎の竹やぶから切ってきました
まず地面の地ならしは
大きな丸い石を縄で結わえ
周りに綱をつけその先をめいめい持って
ヨイショ ドスン
と落として地固めをします
小4の私の力が弱いから
同じ位置に重しが落ちてこないので
みんな困りました
珍しいことをしていると思って
進駐軍の人達は写真を撮りに来ました
そうやって固めた土台の上に柱を立てます
壁土はワラを混ぜて、粗壁を作ります
家の周りのレンガには
郵便局の焼け跡に拾いにゆきます
私の仕事は
なるべく壊れていないレンガにくっついているセメントを
5寸釘で掻き落とし
手押し車で運んできます
瓦も手に入りませんので
焼け跡からなるべく黒いのを拾ってきます
黒いきれいなのばかりはありませんから
焼けて茶色いのやら
黄色いのやらが混じります
兵庫区の荒田町の方まで探しに行きます
その途中
焼夷弾の燃えかすがごろごろしています
そんなのを蹴飛ばしながら歩きます
そうやって集めた瓦で葺いた屋根は
三毛猫みたいで皆で笑いました
焼け野原に一軒だけ建てかけているときに
台風がきました
半人前の大工さんと
素人ばかりで建てたのですから
少し家は傾いていました
それでもバラックばかりの、街中にあって
私の家は立派なものでした
壁は大急ぎで中塗りまでで住みました
上塗りができていないので
壁はわらがちらちら見えました
上塗りまで乾くのに
1年以上時間がかかりました
そんな折
英語教室のお友達の
月堂の吉川俊子さんが
遊びにいらっしゃいました
何をして遊んだのか覚えていませんが
父親同士はお知り合いでしたから
大店のお嬢さんが遊びに見えたので
父が大喜びしました
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