2001年4月から12月に、毎日新聞に掲載紹介された元町周辺の歴史や出来事を紹介しています。
明治維新にまつわる舞台
幕末から明治の初めの混乱期、神戸・元町もその渦中にあった。中でも元町通4丁目にあった料理屋兼旅館「鉄屋」は若き長州藩士の伊藤博文を支援するなど、明治維新にまつわるさまざまな事件の舞台となった。現在の「文具のナガ」(明治13年創業)の辺りである。 「鉄屋」は1863年、長州藩攘夷派と三条実美ら公家7人が朝廷を追われた「8・18の政変」で公家らをかくまい、船を手配して長州へ向かわせた。翌年、長州藩が幕府に戦いを挑んで敗北した「蛤御門の変」でも藩士をかくまった。あるじの弥五郎はこの件で投獄されるが、1866年に薩長連合が成立すると、「鉄屋」は長州藩御用達として発展していく。
1868年、三宮神社前を通行中の備前藩兵が隊列を横切った外国人を負傷させた「神戸事件」では、神戸に居合わせた若いころの伊藤博文が、「鉄屋」でイギリスと交渉した。伊藤は「鉄屋」に居候もしている。弥五郎は事件翌年、伊藤の勧めですき焼き店を開業したが、すぐにたたんでしまったという。
中央区東川崎町にあった弥五郎の自宅は、1886年に明治天皇御用邸となった。今もハーバーランドにその碑が残っている。
◆元町点描3回目 2001年4月12日掲載
毎日新聞掲載記事の転載