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夢街道
スズラン灯余談
元町、という地名が登場するのは明治七年の五月である。以来、町名の根拠は、はじめにできたまち、もとのまちということになっている。
スズラン灯余談
2011/01/01
夢街道
前回、スズラン灯について書いたが、残った資料を余談として紹介する。
谷崎潤一郎が昭和八年十二月、経済往来に発表した「陰翳礼讃」に鈴蘭灯が登場する。作品は、陰の美しさともいうべき日本の文化を陰翳のなかにあぶりだしたものだが、終わりの方に、「老人は追い追い都会に見切りをつけて田舎へ隠棲するのもあるが、田舎の町も鈴蘭燈などが取り付けられて、年々京都のようになるので、そう安心しているわけにはいかない」と書いている。スズラン灯が、田舎を都会に衣替えする先兵の扱いである。大正十三年に京都寺町についたものが、昭和八年にもなると急速に全国にひろまっていたのだ。テーまパークや文化施設の照明をデザインが仕事の藤原工氏は、「北海道から九州まで一〇〇カ所以上の商店街や通りに立っているらしい」と日経紙(09年5月26日)に紹介しておられるから、燎原の火のようにひろがっていったのだろう。元町とそっくりなスズラン灯のある街の写真を見せられ、反射的に元町と答えたが、違っていた経験からも頷ける。 これも藤原工氏の紹介によるが、武田五一がデザインして京都寺町に完成したスズラン灯は、大正十三年(一九二四)十月十四日夜に初めて点灯された。一五〇ワットの電球を先端に、八個の六〇ワット球を連ねた形で、翌日の京都日出新聞は「頗る雅趣に富みその夜景の遠望は婉然イルミネーションのトンネル」と伝えた、という。ちょっと違うのは、祇園祭りの山鉾を通すためアーチの部分を回転するように工夫されていたという。
元町のスズラン灯について、大正十四年の着工で十五年には完成の大売り出しをした、とされる。「こうべ元町100年」誌は「大正十五年。元町通りを電飾したら、の意見をもとに鈴蘭照明灯が完成、竣工祝賀会が行われ、記念の大売り出しがありました」と書いているが、丁内の合意、デザイン決定、着工、完成、一年内に大売り出しにまでこぎつけたのは超人的な働きをするリーダーの力だろう。完成を大正十五年ではなく、昭和二年とす説のあるのも頷ける。
九つの連なった白熱灯がものすごい熱を出し、通り全体がムっとする熱気に包んだというスズラン灯だが、一躍、元町の名を高めた。真っ暗ななかに元町通りの一角だけが明るく、夜のにぎわいを演出した。元町百年のとき神戸新聞が「元ぶらとう言葉がはやったのもこのころ。スズラン灯の下をくぐってメリケン波止場へぬけるのが元ぶらのコース」明治、大正、昭和-3代の神戸に生きた長田はまさんの言葉として紹介している。
第二次世界大戦で、金物類供出のためスズラン灯も対象となり撤去された。ただし、5丁目に一本だけ供出しなかったスズラン灯がある。なぜ供出しなかったのか、その後、残されたスズラン灯がどんな足どりをたどったのか、わからない。
岩田照彦
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