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夢街道
続 神戸村
元町、という地名が登場するのは明治七年の五月である。以来、町名の根拠は、はじめにできたまち、もとのまちということになっている。
続 神戸村
2000/12/01
夢街道
前回、神戸村の由来を紹介したおわりに、こうべの読み方に「おしゃれな気分を感じさせる」とかいた。 名前の由来に、「おしゃれ」などたちいる余地がない、という人がいた。 名前の読み方の由来に「おしゃれ」をもちこむなど、言語道断というわけである。 もっともである。 村から町、いま「市」の名前である。 今回は、神戸の「おしゃれな気分」についての続編である。
古来、わがくには農耕民族の国である。 農民にとって、生産の鍵をにぎるのは太陽と水である。 収穫を得るためには、多すぎても少なすぎてもいけない。 種をまき、太陽と水によってもたらされた収穫を、為政者に献上するのが農民である。 農民は、為政者にとって、時代の最先端をゆく産業戦士(おおみたから)だった。
産業戦士の半数を超えるひとが流行病にかかったとき、崇神天皇は、やおろずの神を祭り、その神々に領地と神戸を定めることで疫病を静め、百姓の賑わいを取り戻している。 そのとき、神を祭る主のひとりに太田田根子の名前がみえる。 名前をみただけで、産業戦士らは黄金によみがえる田圃の姿を想像できたのではないか。
生田神社が祭る神は、若くてみずみずしい日の女神「稚日女尊」(わかひるめのみこと)である。 神社が、女神の徳としてまっさきにあげているのが「生業守護」である。 「健康長寿」の御利益をへて「家運隆昌」し、「円満和楽」をもたらすことから、"縁結びの神"とされる。 生田神社の神戸(かむべ)たちは、生業守護、五穀豊饒のための守り主としてその徳をあおいできたのである。
神戸と書く地名が、多く残ることはすでに書いた。 なかでも、もっとも正統派の「かんべ」と読む土地は、愛知県一宮市今伊勢町宮後字神戸、愛知県豊田市大畑町神戸、愛知県渥美郡田原町大字大草字神戸、愛知県渥美郡田原町大字神戸、三重県鈴鹿市神戸がある。 中部圏に集まっている。 住所から想像して豊かな田圃のひろがりを思わせる。 豊潤な収穫を約束される自慢の地帯であり、ゆく末も同じ土地柄であることを願って、素直にかんべを村の名前にした。
神戸では事情が違った。 神戸のかむべらは、土地からあがる作物だけの収穫だけにたよる土地柄でないことを見通していた。 六甲の南に面した土地で太陽をいっぱいあび、時折あふれることはあっても、豊かな水の恵みがある。 見おろす海には、暮らしをうるおす魚介類がある。 神戸という立場で一般の封戸より過小な税負担ですむ土地柄でもある。 しかし、海と山にはさまれ人口の増加をうけいれるには、狭小すぎる土地柄だ。
かむべの住む村であり、村名に「神戸」の字を当てたのは、神の名で自然の恵みへ感謝の気持ちをあらわしたものである。 読み方は本来の「かむべ」ではなく、「こうべ」とした。 自然の恵みに感謝する民の住む土地・神戸に敬意を表しながらも、将来、自然からの恵みだけでは暮らせなくなる時代の将来を察して、 ひとの知恵も暮らしにいかしたのではないか。
「こうべ」に"頭"の文字をあてた古人の記録がある。
神戸人の、知恵の深さと広さを見る。
岩田照彦
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