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夢街道
神田孝平 (四)
元町、という地名が登場するのは明治七年の五月である。以来、町名の根拠は、はじめにできたまち、もとのまちということになっている。
神田孝平 (四)
2006/08/01
夢街道
兵庫を去るにあたって、孝平は事務引継の草稿をのこしている。
総説にはじまる草稿は三〇項目にのぼるが、そこから当時の行政のありようをみよう。
文明の進歩は早く、将来をみとおすことはむつかしい。いつ転勤になるかわからない身で、将来のことを決めるのは「覚束なきことの限なり」で、その時の公論を採り入れ、可もなく不可もなくやってきた。将来のことを決めるようなことはしなかったが、その場面に出会ったときは、その決定を県の役人がするのではなく、民会にゆだねるのがよい。後あと弊害を生じさせないためであり、問題が生じたとき責任をとる当事者として民会がある、というのがその理由である。
いま盛んにいわれる「協働」であろう。自立をうながすための責任を自覚させたところは、地方分権論の県内版といえるかもしれない。
選挙制度をとりいれた「民会」についても、その内容と趣旨をかたる。
組織は、町村会、区会、県会とする。町村会は、不動産所有者より公選で十人から二十人までで、その人数は町村人口による。区会議員は、各町村から公選の議員と戸長とする。県会は各区公選の議員と区長である。戸長と区長は、地元の庄屋や年寄で、公選ではなく以前から村の役人をつとめ、事務にもたけた人たちである。
公選の議員だけでは事務に支障を来し、区長、戸長だけでは議事の趣意に反することを恐れるため両者を含めて組織化した。人民の意識が成長してくれば、議事は公選議員に委ね、区長、戸長は行政事務の担当専任として区別するためである。
区長、戸長にも公選制を導入するのは、人民に義務を担当させるためである。税金などの使い道で疑惑が生じたとき、官選なら責任をまぬがれないが、民選ならこれの償いを求めることもできる。公選法施行以来、人々はたがいに人望を重んじひろく交流するようになったのは民選の成果というべきではないか。
県税並びに賦金の事についてはつぎのように述べる。
民会を設けたる以上は、人民の協議を経ずして費用を課するの理なし、故に現今、区戸長ハ申に及ばず、県令たりとも人民の協議を俟たず財用を賦課することなし、又、既に使い払いたる後にも帳簿は望ミに任せ之を公示するを法とす、希くは人民等理由を解させる財を出すことなく、県令・区戸長も亦民財を濫用するの失措を為すに至らず。
「万機公論に決する」精神を根元から掘り起こそうとした制度だったといえる。
また孝平はいう。
民間の財本は国の元気にして、なお人身に血液あるか如く、これなければたちどころに斃るるに至るといへり、故に財本保護の事ハ地方官も怠るべからざる所なるべしといえども、其の方法に至りては別に術なし。
孝平には、紙幣を部屋いっぱいに並べて楽しむ癖があった。二階の部屋で紙幣を並べるのに熱中していたあまり、あやまって階下へ転げおちた。落ち方がよかったのか、体に支障をきたしたとする記録はない。
財本保護の方法に至りては油断なるまじき、の心境だったろうか。
岩田照彦
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