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夢街道
洋服の話(2)
元町、という地名が登場するのは明治七年の五月である。以来、町名の根拠は、はじめにできたまち、もとのまちということになっている。
洋服の話(2)
2016/07/01
夢街道
礼服着用布達
明治四年、服装は和洋のはざまで揺れていた。和装の規則は、頭から足まで徹底されており、ヨーロッパ留学生は、外国でも衣服髪容を変えてはならないとされ、新政府になっても新たな指示はないままだった。 明治天皇は、将来の指針を定める必要があるとして、公式服装は今後、洋服にすべきかどうかについて御前会議を招集する。西の丸百余畳の大広間に集まった政府高官や宮内関係神祇官の服装もまちまちだった。三条実美、岩倉具視は烏帽子、直衣で威儀正しくひかえるが、なかには羽織、袴のもの、裃をつけたものがおり、西郷隆盛は筒袖羽織にタチツケ袴のいでたちだ。まさに服装文化は混沌のなかにあった。
三条太政大臣が議題を説明する。開国進取の大方針に従い、洋服に定めるべしとの提案に腹蔵ない意見を伺いたい、と。後藤象二郎は、泰西の服は起居進退が便利だけでなく、快活に見える。皇国は、今後諸外国との交渉も頻繁になり、異様の服装ではよろしくない。大英断をもって洋服に、と進言した。
静まりかえったなか、突如、反対論が大広間に響きわたる。便・不便という軽薄な理由で大切な皇国従来の服装を西洋風に改めるとは何事か。便利なら裸体に兵児帯ひとつがもっとも便利。外国と交際上必要とは、なんと腰抜けか。その気分が服装に現れるのは当然。天下に冠絶する神州の正気は、我が国の服装に現れている。国交上不都合なら、外国人をわが服装に改めさせる覚悟をもつべきである。洋服を採用すれば、生地や制作、すべて外国人に頼らざるを得ず、財政上も由々しき一大事ではないか。
それを受けて反洋服派が、天皇の服装までも変更願うのか、と勢いを盛りかえす。副島種臣が、おだやかに口を開いた。洋服に反対の方々は、便・不便、外交の得失、経済の当否で判断されているが一応はごもっとも。が、これ末葉の論議と存ずる。支那の趙の国は、胡の国を攻めるに、味方の兵に胡の服を着せ征服したと聞く。胡を征するため、今胡服をもってするのは明らかである、と。
その意見をまっていたように西郷隆盛が言った。おいどんは副島さんに同意でごわす。
明治五年十一月、政府は「而今礼服に洋服を着用すること」と布達する。
岩田照彦
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