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夢街道
布達にみる世相 乗馬
元町、という地名が登場するのは明治七年の五月である。以来、町名の根拠は、はじめにできたまち、もとのまちということになっている。
布達にみる世相 乗馬
2007/01/01
夢街道
幕末から明治。政権の交替が、三村のひとびとにどんな変化をもたらしたのか。
当時のお触れから、世相のかわりようをのぞいてみたい。
兵庫、神戸両港で乗馬を禁ず、の布達がある。明治二年三月十五日づけである。
兵庫・神戸で、町人小者が馬にのって往来、役人に出会っても礼をとらず、上下の差別をわきまえないのは不都合このうえもない。今後、このように礼節をみだした者は、その馬をとりあげ、罰を科すので、その旨こころえるように。 時代がかわれば、人心もかわる。
ひとびとは、政権の交替を、新政府による幕府高札の撤去で確認した。ながいトンネルの先の、青空のもとに身を置く気分であったろう。ええじゃないかの踊りにすでにそのはじまりはあるが、すべての規則は幕府高札の廃止で実行にうつされた、そんな思いが、村のひとたちにひろがった。
もっとも敏感に反応し、行動でしめそうとするのは若者である。開放感をどう表現するか。村を、そしてまちを闊歩してきた凛々しい武士の姿、堂々たる外国人の姿も馬上にみる。馬に乗ることは、庶民にゆるされなかった姿である。その規範がなくなったとき、許されなかった規範の世界を体感してみたいというのは自然ななりゆきだ。
手近にある馬の背にまたがる若者がいた。
三村のみじかなくらしに馬の姿があったわけではない。農耕につかわれたのは牛である。馬のいる家は限られていた。役所のほか、陣屋をつかさどる庄屋、藩の指定宿になっている旅籠、酒造などを業とする家が製品をはこぶために用意する、そんところでないと、馬の顔はみられなかっただろう。
馬が家にあれば、幼いころからしたしんできたひとはいる。はじめてまちに乗り出した者は、ひと目にどううつるのか、高揚した気分のなかで、内心そんな期待にむねふくらませながら路上を闊歩したのではないか。
馬上では、武士になった気分である。
はるか遠くまで出向くことができ、時には、街道のすぐ南に広がる松林の砂浜をかけることもある。馬を自分の足にして、野山をかけまわる醍醐味は、いまならさしずめ自家用飛行機で村落を俯瞰しているような快感ではなかったか。
道行くひとすべてが、しもじもである。西国街道とはいえ、道幅は2間から2間半、ゆきかう人は、馬を避けるかたちになる。避ける相手が武士なら、馬上の気分は格別である。ひとりがふたりになり、またたく間に、小さな群れができた。
布達はだしたが、体制のかたまらない新政府にきびしい取り締まりまで手がまわらなかったのだろう。
同年十一月二十日、重ねて乗馬を禁ずる布達をだすが、新時代の象徴として乗馬をたのしむひとたちをあきらめさせることはできなかった。
同年十二月四日、新政府は、無刀の者の乗馬を禁止した。
岩田照彦
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