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夢街道
見世物
元町、という地名が登場するのは明治七年の五月である。以来、町名の根拠は、はじめにできたまち、もとのまちということになっている。
見世物
2007/07/01
夢街道
見世物への布告がある。
明治五年三月、こんな布告がでた。
「神事祭典に事寄せ醜態の雑技を演ずることを禁ず」
在の者申し合わせ踊り狂言その他種々の雑技を催し、中には掛け行灯又は額等へ陰形その他見苦しい雑画を掲げ、あるいは陰具を造り市中へ持ちだし、このような醜態をすることはあいならず、以後心得違いのないように、というものである。
浴場での男女混浴があたりまえのころである。混浴をなくすよう指導もしている。外国人の生活習慣に、よりはやく近づけたい、そんな思いがつよい。
三村は、当時、各地からひとをあつめる時代である。穏やかな暮らしに、開港が風穴をあけた。幕吏暴掠を逞したる後、官軍来りて警衛に従い、薩長藩士統治の局に当たりたれば、朝幕の確執など其所以如何を知らず、只態改善、土地繁盛すべしと喜び「いいじゃないか」と唱え、不安の景勢より救い出されたる民心は、今は安愉の思いをなし、狂歌乱舞、官吏兵士の威厳を憚らず、という明治元年からの気分が、あふれるひとにも伝わって、その余韻のなかにある。醜態の雑技を演ずる者は、そうした三村の風潮のなかでその日の糧を得ようとしたものだろう。
神社仏閣は、物見遊山の対象としてひとのあつまる所である。ひとがあつまりさえすれば、そこに店をはるのはいまも昔もかわらない。街道に面して八幡社があり向かい合って天神社がある。街道に面してはいないが、極楽寺に善福寺、善照寺がある。それぞれに広い境内をもっている。禁じられながらも、そうした人達の商いの場として、三村は当時、有力な稼ぎ場だったにちがいない。
一度の布達で、事はおさまらない。商うひとにはくらしがかかる。いたちごっこである。
同年八月には、道路において演技の者へ金銭を与えることを禁ずる触れもでた。
辻辻、あるいは軒下にたって、軽口物まねまたは門芝居を致し一銭二銭を乞う者があるが、これら無頼遊堕の者が立ち入らぬよう、その町まちで厳重に取り締まること。みすごしてそのままにしている家はもちろん、向こう三軒から金一朱宛の罰金取り立てる、という。
神社仏閣にいい場所をみつけられなかったか、いつもひとの行き来のある街道筋に地の利をみたのか、三村のなかの、商いになりそうな場所をみつけて、そこにも稼ぎ口をみつけている。迷惑したのは、三村に住むひとたちだろう。
同じ八月、兵庫県は重ねて裸体および婦人の細帯のみにて往来することを禁ずる旨、布達した。市中に於いて裸体肌ぬぎ又は半纏・法被等にて股脛を露し、或いは婦人細帯・シゴキ等にて歩行は勿論、職業等致すこと相成らず。背けば罰金取り立てる。大工、人足などには抱主から申し聞かせるように、という。
布達は、成熟した兵庫のまちよりも、開港場になった三村への配慮であろう。
三村を世界秩序のレベルに、そんな意図が、布達からかいま見る気がする。
岩田照彦
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